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2011/12/05
第212話 常態化するPainkiller策
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早いもので年末となった。2011年もあと1ヵ月足らずとなったが、今年は起こりそうにない(発生の確率は非常に小さい)が起きればリスクの度合いが大きい(損失の程度が甚大)という「テール・リスク(Tail Risk)」に該当するものが頻発した珍しい年になった。X軸に損失の程度を、Y軸に発生の可能性をとった確率分布を示す中央部が高くなる山形のグラフの尻尾(tail)の部分に位置することから英語表記でこのように呼ばれる。発生確率からは「想定外」のリスクである。それが頻発した。
東日本大震災による「津波被害」に原発のメルトダウンは、代表例だが、紀伊半島を襲った豪雨被害や海外ではタイの大洪水と自然災害に想定外が続出した。金融界もまた同じだった。ユーロ圏で広範囲の国債から資金が逃げ、破綻が意識されるに至ったのも数年前の感覚からはこの範疇に入る。米国債の格下げが現実化したことを指摘する人もあろう。「想定外」というなら金価格が1900ドル台を突破したことも挙げられる。
11月30日に日米欧の6ヵ国・地域の中央銀行が、協調して民間銀行へのドル資金の供給体制を強化することを発表したのも、このテール・リスクを考えてのもの。域内の国債を大量に抱え、その値下がりによる含み損の拡大から市場からの資金調達に支障が出ている欧州などの銀行。その中で突如として資金繰りに行き詰るところが出ると、(投資家のみならず)人々の不安心理はまたたく間に連鎖して予想外の形で国際金融危機がやってくる可能性が高い。何かはわからないが、それは何かをきっかけにいつ起きても不思議はない。いまの国際金融の現場はユーロ圏を中心に、そんな“おどおど、ビクビク”とした状態にある。
この協調策の発表された11月30日にNYダウが500ドル近く急騰したのが象徴的だが、それは変則的な金融緩和策に匹敵することによる。実際に先週のNYダウは週間ベースで787ドルもの大幅上昇になった。協調策を主導したのは危ういユーロ圏の状況を危惧している米FRBのバーナンキ議長だろうと思っているのだが、ユーロ圏サイドからの申し出があったとの情報もある。であるならば、思っている以上に深刻な事態といえる。
問題は、この政策で今足元にあるユーロ圏の債務危機に対応できるのか?
11月30日付の米紙WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)電子版の記事見出しに今回の流動性の提供(資金供給策)は「Central Bank Injection : Painkiller , Not Cure」というものがあった。まさにPainをKillする痛み止めの対症療法であって 、痛みの元を解決するものではないというわけだ。まさにその通りではあるが、このニュースが伝わった後の市場の反応は、先のNYダウのように、それ以上のものがあった。広い意味での金融緩和策の突然の発表は、まさに「ポジティブ・サプライズ=びっくり好材料」ということで、市場はその延長線上に本格的なECB(欧州中央銀行)の関与を期待したともいえよう。
しかし、中央銀行がどれだけフローの資金を供給しても国家の返済能力が上がるわけではないので、とにかく市場を安心させ落ち着かせるという部分に主眼がある。その意味で市場に好感を持って迎えられたのは、非常に良いことで、この安心感が広がっている間にユーロ圏では具体的な対応策の合意と実行方向を示す必要がある。それが出来なければ、今回の中銀の対応策の“賞味期限”は短くなりそうだ。その面で12月8、9日に予定されているEU首脳会合(EUサミット)が注目点となる。
11月は全世界が恐れていた債務危機のイタリアへの波及が現実のものになった。スペインもまた同じ。ユーロ圏の大国であるこの2国への波及は、仮に破綻となればユーロ圏の“互助会組織”といえるEFSF(欧州安定化基金)の使用可能な資金規模4,400億ユーロを遥かに超え対処 不能であるからだ。イタリア一国の負債規模は1.9兆ユーロにもなる。
すでにイタリア国債からは資金が逃げ(不安を抱いた投資家が見切り売りを出し)、国債価格は急落し、利回りは今後イタリア政府が借金返済に行き詰るのは時間の問題とみられる7%を超えてしまっている。11月23日には今や世界でもっとも信用度が高いドイツ国債が調達予定額の応募が入らない「札(さつ)割れ」になったのは、ドイツまでも疑われ始めたというよりも、ユーロ圏の状況を考えた場合、2%割れの水準では投資対象として魅力に乏しいとの投資家の判断によるとも言えよう。今後、ドイツの負担が増すと市場は見ているわけだ。
ユーロ圏に残された道は2つ。市場を安心させる完全な財政と通貨の統合を目指すか、崩壊への軟着陸か。この場合、軟着陸は考えにくいが統合深化を探るにしても乱気流は不可避だろう。結局、ECBが直接的にしろ間接的にしろ前面に出て、ユーロを刷って域内国債の買い取りを今以上に増やすPainkiller策に入らざるを得ないのではないか。(2011年12月5日記)
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎
※本レポートは執筆者の個人的な見解を述べたものであり、実際の投資にあたってはお客様ご自身にてリスクをご判断ください。
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