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| 2009/04/30 |
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第202話 再び1000ドル乗せの金価格(パート2) |
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「金ETF残高の歴史的増加」
2009年ここまでの金市場の内部要因をみると、その特徴は投資需要の急
拡大といえる。その背景にあるのが金ETF(上場投信)を介した金市場への資
金流入である。
なかでも代表的銘柄でNY証券取引所や東京証券取引所などに相互上場され
ている「SPDR(スパイダー)・ゴールド・シェア(以下、スパイダ
ー)」の残高の伸びが目覚ましい。1−3月期の同銘柄の純資産の増加は3
47トンと2004年11月の上場以来の記録的な規模となった。現物の保
有を裏付けとする投資信託(ETF)だけに金市場にとっては短期間でこれだけ
の規模の金現物が市場から吸い上げられたことになる。ちなみに昨年1年間
の増加量は152トンでこれまで年間で200トンを超えて増加したことは
なく、最高は06年の189トンだった。この1−3月期の状況がいかに突
出したものであるかがわかろう。
足元4月29日時点でのスパイダーの残高は単体で1104トンに上ってい
る。公的機関の中で6位にランクされているスイスの中央銀行(スイス国立
銀行)の保有量1040トンを抜くところ迄やってきた。このスパイダーを
中心として金ETF全体では1346トンにも達している状況だ(2009
年4月29日時点)。
こうした金ETFだが、上場当時からここまでのところ欧米の年金基金を中
心に中長期の機関投資家の資産分散のいわば受け皿として機能してきたとい
える。欧米の年金基金は、暦年ベースで前年11月下旬頃までに次年度の資
金配分を決め年始に組み換えを実行するところが多い。したがって過去にも
年始1、2月に金ETFの残高が目立って増加ということが見られてきた。
昨年秋の運用方針決定のタイミングが、世界的な信用リスクの上昇と重なっ
たことを考えると、年始の残高急増の裏に年金基金の買い付けがあったのは
想像に難くない。
さらにこの間の環境から考えるに、2007年頃より目立ち始めた年金基金
のコモディティ(商品)市場への資金配分の手段として取られてきた「イン
デックス(指数)連動型運用」と呼ばれる投資手法から離れ、金ETFに絞った
投資が増えていると見られるのである。インデックス型は、比率こそ違え原
油から穀物から金まで様々な商品を買い付けるやり方だが、世界景気の同時
後退懸念が現実のものになり、そこに金融危機の長期化もあり、コモディテ
ィのなかでも金融的側面をもつ「金」に対象を絞る機関投資家が増えたと見
られるのである。こうした環境に耐性があるのが金であるからだ。
「勝ち組ヘッジファンドの参入」
さらに今回のETF増加の背景として、欧米や新興国富裕層の資金の金市場
への流入が考えられることだ。それは直接的なETFの購入というよりもフ
ァンドを介しての流入が取られていると見られる。また先物市場などレバレ
ッジを利かした取引(借入などで自己資金の何倍もの取引)が中心と見られ
てきたヘッジ・ファンドでも金ETFの購入が進んでいると見られる事例が
2009年に入って以降見られ始めている。
ヘッジ・ファンドというと昨年、株取引などの追証の手当や解約資金の調達
を目的に金市場では取引解消の売りや換金売りを急激に進め10月下旬の7
00ドル割れにつながった経緯がある。したがってヘッジ・ファンドに関し
ては、今でも「買い」というよりも顧客の解約請求に備えたキャッシュ調達
の「売り」を警戒する声が金市場内には根強く残っており、5月危機(ヘッ
ジファンドの中間決算期にあたる5月に売りが膨らみ金価格は下がるという
見方)を指摘する声も少なくなかった。
そのヘッジ・ファンドの中に金ETFや広く金鉱株にまで資金を配分し、ポ
ートフォリオに金を幅広く組み入れていると見られるファンドが増えている
と見られるのである。
一例を挙げるならばサブプライム関連の証券のショート(空売り)で大成
功を収めたとされるヘッジ・ファンド「Paulson & Co.(創業者ジョン・ポー
ルソン、53歳)」がある。いまや米国でも3位の資金規模を誇るファンド
だが、2008年のヘッジ・ファンド全体のパフォーマンスが平均でマイナ
ス19%とされるところを、その旗艦ファンドは37%もの結果を残すに至
っている(ブルームバーグ)。さらに昨年9月以降に英国の大手銀行の株を
ショートし年始にそれらが急落し政府管理下に入り、大手ロイズ銀行とHB
OS2行だけで4億2800万ドル(約410億円)の利益を上げたと伝え
られるところでもある。
このポールソン・アンド・カンパニーが、年始から金関連の買いポジション
を高めているという話があり、筆者は金ETFの買いも進めたと見ている。
直近では、南アフリカを地盤にする世界第4位の産金会社アングロゴール
ド・アシャンティの発行済み株式の11.3%を取得し第2位の大株主とな
ったことも明らかになっている。すでに同ファンドは、カナダに地盤を置く
キンロス・ゴールドの4.1%を保有し第4位の株主でもあり、中期的な観
点からの運用資産における金の総合的なポジションを膨らませていると見ら
れる。
3月9日付けの英フィナンシャル・タイム紙に掲載された世界第1位の金鉱
山会社バリック・ゴールドの名物会長ピーター・ムンク氏のインタビュー記
事に「ジョージ・ソロスとはいわないが、同クラスの投資家たちが金に投資
をしたと話している」という内容があった。おそらくこのポールソンや他の
“勝ち組ファンド”の話と思われるのである。
「なぜ金なのか」
それでは、なぜヘッジ・ファンドまでもが金ETFを投資対象に選び始めたの
か。
言えるのは、中期的視点としてのインフレへの対応ということだろう。足元
でFRB(連邦準備理事会)をはじめ主要国の中央銀行は歴史的な低金利と「量
的緩和策」と呼ばれる通貨の増発政策を取っている。景気と金融危機の双方
をにらんだ政策だが、その本質はデフレへの落ち込みを避けるということが
本義となっており、不退転の決意で進められているといえる。将来この政策
がインフレにつながる可能性には目をつむっているというのが本当のところ
だろう。それほど経済のデフレ化は、恐れられているのである。
なぜならデフレとは、単に物価が下がるだけではなく、経済全体が収縮する
ことを意味し、一度そうした状況に陥ると、どれだけ金利を下げても通貨の
発行を増やしても効かなくなる可能性があるからだ。すでにゼロ金利に至っ
ている現状がそれを物語るというわけだ。
とりわけ米国の中央銀行FRBのそれは、お札をドンドン刷ってばら撒くよ
うな段階に入っているといえるのである。この3月18日のFOMC(連邦
公開市場委員会)では6ヵ月間で3000億ドルの国債の買い付けという量
的緩和策の正式導入を決め、すでに3月25日から実行に移されている。こ
れは金融機関が保有している国債をFRBが買い取るかたちで、新たな紙幣を世
の中に還流させ、カネ余りを作る政策である。それが半年で日本円にして約
30兆円の規模になる。これ以外にも、民間の債券の買い取りなども同時並
行的に行っており、効果がなければこの金額も拡大させる方針もバーナンキ
FRB議長は表明している。
米ドルをさして、ペーパー・マネーという言い方をすることがあるのだが、
現状はペーパー・マネーよりもむしろ「プリンティング・マネー(printing
money)」と呼んだほうがふさわしいといえそうだ。それは通貨の価値が薄ま
っていることを意味する。
中長期の視点で資金を運用している年金基金やその他の機関投資家は、こう
した金融環境のなかでETFを介した金の保有を増やしているのである。それが
2009年早い段階での金価格1000ドル乗せの背景にあったといえる。
(2009年4月30日記)
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎
※本レポートは執筆者の個人的な見解を述べたものであり、実際の投資に
あたってはお客様ご自身にてリスクをご判断ください。
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